「なぜ、あなたは今の仕事をしているのですか?」この問いは、私が講演や研修の冒頭で必ず投げかける言葉です。執事として長年、富裕層のお客様にお仕えしてきた経験から確信しているのは、“理念に立ち返る力”を持つ人ほど、長期的に信頼され成果を出し続けるという事実です。本稿は、新井直之の講演依頼の中でも人気が高いテーマ「理念に立ち返る」を、現場の実例と心理学の視点からまとめた公式ブログ記事です。

理念とは「行動の羅針盤」である
執事の仕事は、単なる作業の連続ではありません。お客様の感情の変化を先取りし、ふさわしい所作と言葉で空気を整えることに本質があります。そこで要となるのが理念です。理念は経営理念のような大きな文言だけを指すのではなく、個々人の行動を導く内なる羅針盤を意味します。目の前のタスクに追われるほど、私たちは判断の基準を外部に頼りがちですが、理念が明確であれば、同じ状況に置かれても選び取る行動がぶれません。
たとえば、執事は富裕層のお客様にお仕えする際、効率よりも心の安らぎを優先する局面があります。完璧に整ったテーブルセッティングより、その日のご気分に合う一杯の紅茶が価値を生むことがあるからです。理念があるからこそ、最適が選べます。
なぜ、あなたはその仕事を選んだのか
講演の場で「なぜ、あなたはこの仕事を選んだのですか」と問うと、多くの方が一瞬言葉に詰まります。業務に慣れるほど、目的が作業にすり替わるからです。執事も同じです。お客様のための行動が、いつしか「こなす」こと自体を目的化してしまう瞬間があります。
ある若い執事の実例があります。数年の経験を積んだころ、上司から「最近、あなたから温かみが消えた」と指摘されました。彼は入社時のノートを開き、当時の自分が書いた一行を見つけました。「人の幸せを陰で支える人になりたい」。翌朝、彼の所作は見違えるほど変わり、声かけの間合いも、視線の配り方も、再びお客様中心へと戻りました。原点を言葉にして再確認することが、行動全体を再設計するのです。
初心を忘れると何が起こるのか
心理学者アブラハム・マズローの欲求5段階説では、人は自己実現に向かって成長する存在とされます。理念を見失うとは、自己実現に向かう上昇機運を自ら断つことに等しい状態です。成果を上げているのに心が満たされない、評価はされているのにやりがいが薄い。これらは理念なき努力の兆候です。
現場の例をもう一つ。あるご家庭は皆が多忙で、食卓に会話が少ないことが続いていました。私は静かに紅茶を差し出し「この香りが本日の休息になりますように」とひとこと添えました。場の温度が和らぎ、自然と感謝の言葉が行き交い始めました。理念は抽象ではなく、心の回復を促す具体的介入へと転化します。執事の視点でいえば、理念は空気を整えるための最も精度の高い道具です。
理念を行動に戻す三つの実践法
- 毎朝、自分の理念を一文で言語化する 一分で十分です。「自分はなぜこの仕事をするのか」を一文にまとめ、声に出すか手帳に記す。これだけで、意思決定の基準が一日中そろいます。執事の現場では、朝の支度の最後に一文を口にすることで、所作の精度が安定します。
- 小さな「ありがとう」を記録する 感謝は理念が行動に宿った証拠です。お客様や同僚からの感謝を日々メモし、週末に振り返る。執事の新人教育では「感謝通帳」という簡易ログを推奨しています。数週間で、どの振る舞いが価値を生みやすいかが可視化されます。
- 理念を共有する場をつくる 理念は個人の信念であると同時に、チームの文化です。週次で三分だけ、各自の「今週の一文」と「一番のありがとう」を共有してみてください。責任追及ではなく、再発防止と価値創造の対話が生まれ、組織のホスピタリティが自然と深まります。
執事の現場から見える「理念」の具体
執事・コンシェルジュ・ハウスメイドは役割も背景も異なります。執事は全体の設計と最終品質の担保、コンシェルジュは手配と選択肢の提示、ハウスメイドは生活導線の清浄と秩序の維持を担います。三者が共通で拠り所にするのが理念です。たとえば、急な予定変更が入った際、執事は「お客様の平静を最優先する」という理念を前提に、段取りの再構築を即断します。理念がなければ、指示待ちや手戻りが増え、表情の微細な変化を読み落とします。逆に理念が共有されていれば、誰が対応しても質が揃い、安心が揺らぎません。
このテーマでの講演依頼が選ばれる理由
- 目的意識の再構築が、生産性と離職率の双方を改善するから
- ホスピタリティとおもてなしの違いが、業務設計に直結するから
- 抽象的スローガンではなく、現場で回る具体アクションに落ちるから
- 執事の事例が、業界を超えて応用可能な実装知へ翻訳されているから
講演では、心理学的裏付け(マズローの欲求5段階説、コミュニケーション理論)と実例を併走させ、受講直後から現場で試せるチェックリストとワークを提供します。管理職研修、サービス現場、営業組織など、対象に応じてシナリオを最適化します。
導入効果と活用シーン
理念を軸にした運用は、目先のテンションを上げる施策ではありません。言葉、所作、段取り、環境整備に一貫性をもたらし、長期の信頼と再現性を育てます。新任マネジャーの着任期、方針転換のキックオフ、カスタマーエクスペリエンスの再設計、インナー・ホスピタリティの浸透などで特に効果が高いテーマです。執事の視点は、丁寧さの演出ではなく、価値の無駄を削り、心の摩擦を減らす実務知として機能します。
講演依頼・お問い合わせ
新井直之の講演依頼は、対面・オンラインいずれにも対応します。テーマは「理念に立ち返る」「おもてなしの本質」「ホスピタリティ経営」などから選択可能で、御社の目的に合わせてカスタマイズします。お見積もりや日程調整は、当サイトのお問い合わせページからご連絡ください。
参考文献
新井直之(2017)『執事が教える至高のもてなし』きずな出版
よくある質問
講演依頼の対応エリアはどこですか
国内外に対応します。スケジュールと移動条件に合わせて最適な形をご提案します。
オンライン講演は可能ですか
可能です。双方向のワークを含む設計も行います。セキュリティ要件がある場合は事前に共有ください。
所要時間と推奨構成は
標準は60〜90分です。講演のみ、講演+ワーク、管理職向けディスカッションなど目的別に構成します。
費用感はどのくらいですか
講演内容、所要時間、移動条件により変動します。まずはお問い合わせください。個別にお見積もりいたします。
自社の課題に合わせてカスタマイズできますか
可能です。現場調査や社員ヒアリングを踏まえ、用語や事例を御社仕様に合わせます。
配布資料やアーカイブは用意できますか
要件に応じて対応します。著作権と二次利用範囲は契約時に取り決めます。

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