おもてなし ・ ホスピタリティの哲学
こんにちは。
わたくしは現役の執事です。
まずは一つ、あるお話をご紹介させてください。
声に出すと状況をイメージしやすいので、音読をされるといいかもしれません。
今日は、大切なお客さまである海外VIPが来日される日。
VIPはお昼の12時に、とある空港へ飛行機で到着されます。
日本に到着後、その日の14時に、自身の所有する会社にて大切な会談の予定が入っていらっしゃるようです。
あなたは空港から会社への送迎を頼まれました。
さて、無事に時間通りに空港へ到着されたようです。
車でお迎えにあがり、順調に目的地に向けて車を走らせます。
スムーズにいけば、1時間程度で着く距離です。
……ところが、途中の高速道路で、予想外の事故渋滞につかまってしまいました。
すでに時計の針は13時20分を指しています。
いまから高速道路を降りて一般道で向かっても、14時の会談には間に合いそうもありません。
「きみ、渋滞じゃないか。これでは会談に間に合わないぞ。数百億円規模の業務提携の話をする大切な場なのに、どうしてくれるんだ?」
……さあ、どうしますか?
私ども執事は、このように答えます。
「はい、問題ありません。想定内です」
いまからお話する「至高のおもてなし」を学ぶことにとって、あなたは相手が誰であれ、そして、たとえどんな状況であっても、心をつかむ「究極のサーヴィス」を提供することが可能になります。
いかがでしょう、ワクワクしてきませんか?
それではご主人さま、しばしおつき合いください。
まずは冒頭の状況に対する、私の回答をお教えします。
「はい、問題ありません。想定内です。ヘリコプターをご用意しています」
極端な例ですが、これは実際にあった話です。
このように相手がどんな人で、どんな状況であれ、あなたが臨機応変に究極のサーヴィスを提供できるようになることを目的に、本書を書きました。
私どもは富裕層向けに執事サーヴィスを専門に提供する国内初の会社で、私自身も執事としてこれまで多くのお客さまに接し、家庭でのお世話やビジネス活動の支援を務めてきました。
大富豪の執事は、マンガや小説などに登場することはしばしばありますが、この仕事は一般にはあまりなじみ深いものではないでしょう。
「本物の執事に初めて会いました」といわれることもよくあります。
執事の仕事は、一般的なサーヴィス業とは異なる点がいくつもあります。
最大の特徴は、私たちはお客さま専属のプライベートバトラーであるということです。
多くのサーヴィス業者は、それがラグジュアリーホテルでも老舗料亭でも、不特定多数のお客さまを相手にします。
これに対して、執事は一対一の個別対応が基本。
ご契約いただいたお客さまのためだけに働くのですから、そのぶん、執事サーヴィスに対するお客さまの要求水準も極めて高いものになります。
執事の仕事は多岐にわたり、邸宅内では、メイドやシェフ、運転手などスタッフのマネジメントを担いますし、お子さまの送迎や日常のショッピングの同行など、ご家庭の様々な雑事を引き受けています。
また、私設秘書として、スケジュール管理、出張や旅行の手配、来客対応などをこなすほか、資産管理や不動産の維持管理など、お客さまの財産に関わる業務を任されることもあります。
つまり、法律の制限があることや公序良俗に反すること以外は、すべてが執事の守備範囲といっても間違いありません。
この仕事は、お客さまに成り代わり、あるいは補佐役として、あらゆるご要望に応えていく〝完全オーダーメイド〟のサーヴィスなのです。
大富豪のなかには、家庭に入って生活をともにしている執事を「家族も同然」だという方もいます。
実際、執事は家族の一員のように常に身近にいて、献身的にお世話します。
それだけに、お客さまのことをより深く理解し、その方の好みに合ったきめこまやかなサーヴィスを提供することを期待されているのです。
いってみれば、長年連れ添った夫婦のように「おい」の一言を聞いただけで、そのとき、その方の求めているものを瞬時に察し、最高のサーヴィスを提供できるのが、理想の執事なのです。
当社の創業は2008年のことで、じつはそれまで私は、執事の仕事どころか、サーヴィス業に従事した経験もありませんでした。
本当に手探り状態でスタートして恥ずかしい失敗もたくさん重ねてきましたが、お客さまに恵まれ、これまでにサーヴィスを提供した大富豪は100人を超えるまでになりました。
その経験を通して確信しているのは、執事の仕事とは究極のサーヴィス業だということです。
なぜなら執事は、何につけても評価の厳しいお客さまと向き合う仕事だからです。
執事サーヴィスを利用する方は、社会的にも経済的にも恵まれた方がほとんどです。
とくに私どもの会社のお客さまは、保有資産が50億円以上、年収は5億円以上という大富豪が中心で、なかには数兆円の資産を持ち、世界の長者番付に名を連ねるような方もいます。
そういう方々は、あらゆる場面で最高水準のサーヴィスを受けることに慣れています。
たとえばホテルに着けば、自動車から降りた瞬間に、「○○様、ようこそいらっしゃいました」とドアマンが声をかけてくれます。
ロビーに足を踏み入れると、ホテルの支配人が直接出迎えてくれて、お気に入りの部屋にすぐに通してもらえます。
もちろん、そのような対応は表面的なことで、大富豪は行く先々で、目には見えないこまかな配慮の行き届いたサーヴィスで迎えられるのです。
このようなハイグレードなサーヴィスを日頃から受け慣れている相手ですから、少しくらい気の利いた対応では気づかないほどです。
そもそも最初の期待値が高いので、並大抵の努力や工夫では満足していただけません。
日本ではここ数年で一気に増えたインバウンド(訪日外国人旅行客)への対応や、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本中でサーヴィスマインドの育成や接客力の向上に関心が高まっています。
少子化による人口減少で国内市場が縮小するなか、とくに富裕層相手のビジネスを展開している企業や、客単価数万円を超えるような高級店は、より付加価値の高いサーヴィスに取り組んでいます。
こうしたニーズの高まりを受けて、接遇や接客に関わる本も数多く出版されていますが、そのなかには個人的な感動体験を語っているに過ぎないもの、抽象論や精神論に終始しているものが少なくありません。
誰もが簡単に実践でき、すぐに効果を得られる実用的なノウハウには、なかなか出会えないのが現状です。
最高のサーヴィスとはどういうものか。
執事の仕事を始めてから、私は常にそれをお客さまから学んできました。
そのなかで、どうすれば相手に満足していただけるのか、試行錯誤を重ねながらノウハウを積み上げてきました。
少しでもその知見を役立ててもらいたいと、日本バトラー&コンシェルジュでも、執事の実務経験をベースにしたマナー研修やサーヴィス研修を開催しています。
研修では、接客の最前線で活躍するサーヴィスパーソンと話をする機会も多いのですが、やはり「具体的にどうすればいいのかわからない」という声をよく聞きます。
そこで、もっと多くの方々にサーヴィスの勘所をお伝えしたい。それがこのサイトを執筆する動機になりました。
私は、クオリティの高いサーヴィスとは、すなわち顧客満足度が高いサーヴィスのことだと考えています。
そのなかでも、お客さまが感動してしまうほどの最高水準のサーヴィスのことを、「至高のおもてなし」と呼んでいます。
そして、この「至高のおもてなし」には法則があります。
これから本書でお話する、執事のサーヴィス哲学とおもてなしの法則を学び、実践していただければ、あなたも「至高のおもてなし」を体得することができるでしょう。
この本をきっかけに、一人でも多くの方にサーヴィスの仕事の楽しさに気づいてもらえればと期待しています。
そして、様々な接客の現場で、「至高のおもてなし」がどんどん生まれてくるとうれしく思います。
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Category おもてなし・ホスピタリティの哲学 . ブログ 2020.08.16