「しつこい営業」と「頼れる担当者」を分けるもの ― 正体は、接触回数ではない
「しつこいと思われたくない」という理由で、連絡を控える方がいます。その判断は、半分正しく、半分間違っています。
18年間、執事としてお客様のご自宅に出入りし、無数の営業担当者を内側から拝見してきました。そこで確信したことがあります。
「しつこい」の正体は、接触回数ではありません。動機の不一致です。
週に一度来ても歓迎される人がいて、半年に一度でも疎まれる人がいる。何が両者を分けているのか。本稿はその話です。
第1章|発火するのは、動機が見えた瞬間
「しつこい」と感じられる行動には、共通のパターンがあります。
| 担当者の行動 | お客様の頭に浮かぶ言葉 |
|---|---|
| 期末に提案が集中する | 自分の数字のために来ている |
| 前回の会話とつながらない | 私の話を覚えていない |
| 断った理由に触れずに再提示する | 断ったことが伝わっていない |
| 「今だけ」で急がせる | 私は実績の材料なのか |
四つとも、回数についての言葉ではありません。すべて動機についての言葉です。
提案の動機が「自分の数字」に見えた瞬間に、発火します。逆に言えば、動機が相手の課題に紐づいている限り、頻度は問題になりません。
第2章|恐れて引くと、別の理由で外される
ここで、多くの方が逆方向の失敗をします。嫌われることを恐れて、引きすぎるのです。
| 型 | 行動 | お客様の中での分類 |
|---|---|---|
| 引きすぎた担当者 | 提案しない/聞かれたことだけ答える/耳の痛いことを言わない | 連絡が来ない人 |
| 踏み込みすぎた担当者 | 頻度と勢いで押し切る/断りを受け止めない/自分の期限で急がせる | 売りに来る人 |
| 任される担当者 | 課題起点で深く踏み込む/反対意見も根拠で言う/決断は相手に委ねる | 考えてくれている人 |
引きすぎた担当者は「感じの良い担当者」ではありません。いてもいなくても同じ人です。そして、いてもいなくても同じ人は、次の見直しのタイミングで静かに外されます。詳しくは 引きすぎる担当者は、別の理由で外される に書きました。
目指すべきは、控えめになることではなく、踏み込んでも嫌がられない状態をつくることです。
第3章|二つの軸で見ると、位置がわかる
接触頻度と、ニーズ合致度。この二軸で整理すると、同じ行動の意味が反転することがわかります。
| 低合致 | 高合致 | |
|---|---|---|
| 高頻度 | しつこい営業 「追い回されている」 | 頼れるパートナー 「考えてくれている」 |
| 低頻度 | 存在しない担当者 「誰が担当か思い出せない」 | 節度ある専門家 「必要な時に的確に来る」 |
注目すべきは、縦の移動では解決しないことです。しつこいと言われたとき、多くの方は頻度を落とします。すると左上から左下へ移るだけで、「存在しない担当者」になります。
正しい移動は、横です。合致度を上げる。そうすれば頻度はそのままでも、「追い回されている」が「考えてくれている」に変わります。
第4章|しつこいと言われない、積極営業の五原則
- 課題起点で入る|前回伺った課題・懸念から会話を始めます。商品の話から始めない。
- 前回の会話に接続する|記憶されていることが、そのまま敬意の証明になります。この層は「自分の話を覚えているか」を必ず見ています。
- 相手の時間軸で決めていただく|こちらの期末ではなく、相手の意思決定サイクルに合わせます。急がせることは、この層に対して最も効かない手です。
- 断りを正面から受け止める|理由を伺い、次はその条件を外した形で持っていきます。理由に触れずに再提示するのが、最も嫌われます。
- 提案しない選択肢も示す|「今は動かないほうがよい」と言える人が、最終的に信用されます。
この五つが揃えば、頻度は問題になりません。
第5章|同じ提案でも、言い方で意味が反転する
| 場面 | しつこいと受け取られる | 考えてきたと受け取られる |
|---|---|---|
| 新商品の案内 | 新しい商品が出ましたので | 前回のご懸念に、選択肢が一つ増えました |
| 決断を促す | 今月末までのお申込みです | ご判断は決算をご覧になってからで結構です |
| 再提案 | 改めて、いかがでしょうか | 前回お見送りの理由を外した形をお持ちしました |
| 訪問理由 | 近くまで来ましたので | ご承継の件で、確認しておく点が出てまいりました |
違いは一点だけです。主語が「自社の都合」か「お客様の課題」か。
「近くまで来ましたので」は、丁寧な言葉に見えて、主語が完全にこちら側です。この層はそれを聞き分けます。
第6章|最も評価される行動は、利益にならない行動
私の観察では、この層が担当者を評価する最大の指標は、悪い報告と「買わないほうがよい」という提案です。
どちらもこちらの利益になりません。だからこそ、動機を疑いようがない。利益にならない行動だけが、動機の証明になるのです。
報告しにくい案件ほど、先に、自分から伝える。お客様から電話が来た時点で、それはすでにクレームです。この構造については 富裕層のクレームは、なぜ「別物」なのか に書きました。
そして、なぜこの層が感情で決めるのかについては 富裕層に「売る」のではなく、選ばれる をご覧ください。
よくあるご質問
「しつこい営業」の基準は、訪問回数ですか。
違います。正体は動機の不一致です。提案の動機が「自分の数字」に見えた瞬間に発火します。動機が相手の課題に紐づいていれば、頻度は問題になりません。
しつこいと言われたら、連絡を減らすべきですか。
減らすと「存在しない担当者」になり、別の理由で外されます。減らすべきは頻度ではなく、合致度の低さです。相手の課題に接続した提案に変えてください。
踏み込んでも嫌がられない状態は、どうつくりますか。
課題起点で入る、前回の会話に接続する、相手の時間軸で決めていただく、断りを正面から受け止める、提案しない選択肢も示す。この五原則です。
富裕層に最も評価される行動は何ですか。
悪い報告と、「今は買わないほうがよい」という提案です。どちらもこちらの利益にならないため、動機を疑いようがありません。利益にならない行動だけが、動機の証明になります。
「近くまで来ましたので」は、なぜ嫌われるのですか。
主語が自社の都合だからです。丁寧な言葉に見えても、この層は主語を聞き分けます。訪問理由は、相手の課題で語る必要があります。
この内容で研修を依頼できますか。
承っております。富裕層を顧客に持つ営業部門向けに、接触設計と提案動機の可視化をテーマとした研修を実施しています。
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執筆者について
新井直之(あらい・なおゆき)
執事/おもてなし・ホスピタリティ・富裕層専門家・ビジネス書作家。日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長。一般社団法人 日本執事協会 代表理事、同協会附属 日本執事学校 校長。
2008年の創業以来18年にわたり、資産家・企業経営者・著名人のご自宅に執事として入り、日常の一部始終に立ち会ってきました。本稿の記述は、そのすべてが現場での一次的な観察にもとづいています。
著書は累計50万部を超え、台湾・中国・韓国などで翻訳出版されています。代表作に『執事だけが知っている 世界の大富豪 58の習慣』(幻冬舎)、『執事が教える 相手の気持ちを察する技術』(KADOKAWA)があります。
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