Special Column: Time Mastery

時間は「管理」するものではなく、
「設計」するものである

執事のマルチタスク管理術:4象限がもたらす自由と成果

「新井さんは、どうやってそれほど多くの仕事を並行して進めているのですか?」
講演会や経営者の方々との会食で、最も頻繁に受ける質問の一つがこれです。
執事としての現場、会社経営、協会の運営、そして執筆活動。確かに私の毎日は、分刻みのタスクが幾重にも重なり合う「混沌」そのものです。
しかし、私は一度も自分のことを「忙しい」と思ったことはありません。なぜなら、私は時間を「管理」しているのではなく、明確な意志を持って「設計」しているからです。

1. マルチタスクという「幻想」からの脱却

世の中で賞賛されるマルチタスクとは、あたかも千手観音のように同時に複数の手を動かすことだと誤解されています。しかし、人間の脳は構造上、高度な集中を要する作業を同時には行えません。

執事が現場で行っているのは、同時処理ではなく、極めて高速な「優先順位の構造化」です。 私たちの脳を「情報の倉庫」にしてはいけません。脳は「考えるための演算装置」であるべきです。入ってきた情報を即座に分類し、適切な「棚」へと振り分ける。このアルゴリズムさえ確立していれば、どんなにタスクが押し寄せようと、心は凪(なぎ)のように静かでいられます。

思考の断捨離:脳のメモリを解放せよ

「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」という状態は、脳のメモリを無駄に消費し、本来のパフォーマンスを著しく低下させます。私が提唱する管理術の真髄は、情報の「外在化」です。4象限のマトリクスは、単なる整理術ではなく、脳を自由にするための「解放の儀式」なのです。

2. 荒井流「4象限マトリクス」の深化

私が日々、頭の中で展開している4象限の地図をご紹介しましょう。これは私の著書『執事の手帳術』でも触れていますが、ライブ配信ではさらに踏み込んだ解釈をお伝えしました。

Quadrant 01 緊急かつ重要
【即断の領域】

お客様のトラブル、急病、重大な決断。ここは「火消し」です。迷わずリソースを全投入しますが、ここが増えすぎると人生の主導権を失います。

Quadrant 02 緊急だが重要でない
【委任の領域】

「急ぎ」という仮面を被った雑務です。他人に任せる、あるいは仕組みで解決する。あなたが自ら手を動かしてはいけない領域です。

Quadrant 03 緊急でないが重要
【未来の領域】

教育、資産形成、健康、自己研鑽。誰も催促しませんが、ここへの投資額が、数年後のあなたとお客様の「格」を決めます。

Quadrant 04 緊急でも重要でもない
【排除の領域】

惰性、無目的な習慣。私はこの領域を「人生の泥棒」と呼んでいます。見つけ次第、断固として排除します。

なぜ「第3象限」が最も重要なのか

執事の仕事の本質は、お客様の「重要さを育てること」にあります。 例えば、ご子息の教育環境を整えることは、今すぐやらなくても誰からも叱られません。しかし、10年後、その準備が主人の一族にどれほどの繁栄をもたらすか。私はこの「未来の種まき」にこそ、プロとしての誇りを持っています。

3. 実践:4つの独立したリストと「自分予約」

理論だけでは現実は変わりません。私は具体的な手法として、ToDoリストの「多層化」とスケジュールの「聖域化」を実践しています。

1本の長いリストを捨てなさい

多くの人が、1冊のノートに上から順にタスクを書き出します。これはミスと遅延を誘発するトラップです。私は以下の4つのリストを完全に切り分けて運用しています。

  • 即動リスト:今日中に片付ける第1象限。
  • タイムボックス・リスト:第2象限。まとめて処理する事務作業。
  • 未来創造リスト:第3象限。私が最も愛する、未来への仕込み。
  • 削減・廃止リスト:やめるべき悪習。

スケジュール帳は「自分との約束」で埋める

私のカレンダーには、赤・青・黄色・緑の色分けがなされています。 特徴的なのは、人とのアポイントメントよりも先に、「第3象限のブロック」を予約してしまうことです。 「この2時間は、誰にも邪魔されずに将来の戦略を練る」。この「自分との約束」を破らないこと。それこそが、マルチタスクの荒波の中で自分を見失わない唯一の方法なのです。

4. 執事の眼差し:優先順位は「愛」である

優先順位を付けることは、冷徹な選別ではありません。それは、限られた人生の時間を「何に捧げるか」を決める、極めて情熱的で愛に満ちた行為です。

主人のために、何が最も価値があるのかを考え抜く。その結果として「今はこれをやりません」と申し上げる勇気。これは、お客様への深い忠誠心(ロイヤリティ)がなければできないことです。 マルチタスク管理術とは、技術である以上に、「大切なものを大切にするための哲学」なのです。

YouTube Live Archive

「執事の朝礼ライブ」では、本稿の内容をさらに詳しく、生の声でお届けしています。
私が実際にどのようにスケジュールを色分けし、どのようにタスクを捌いているのか。
そのリアルな空気感を、ぜひ動画で体感してください。

【アーカイブ視聴】
執事のマルチタスク管理術
〜4象限で人生の質を変える〜

[動画のハイライト]

  • 02:01:仕事の地図を描く「4象限マトリクス」の基礎
  • 07:03:なぜ一流は「緊急でない重要事項」に命をかけるのか
  • 11:11:脳を疲れさせない「4つのリスト」分割法
  • 12:43:荒井流・スケジュールの色分け設計術

もしあなたが、日々の忙しさに追われ、自分自身の未来を描く時間を失っているのなら。
今日から、たった15分で構いません。4象限のマトリクスを広げ、あなたの「重要」を救い出してください。 その小さな一歩が、数年後、誰も想像できなかったような大きな果実となって、あなたとあなたの愛する人たちに届けられるはずです。

日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表
一般社団法人日本執事協会 代表理事
荒井 直行

記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

本物執事の新井直之

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