おもてなし ・ ホスピタリティの哲学 | 相手の「鯛」を何匹釣り上げられるかが勝負です

おもてなし ・ ホスピタリティの哲学

相手の「鯛」を何匹釣り上げられるかが勝負です

 

 

 

執事はお客さまと接するとき、相手の「鯛」を釣ることを心がけます。

 

「鯛」を釣るといっても、もちろん本物の魚の鯛とは関係ありません。

 

相手の「○○したい」という欲求を満たすのです。

 

人間には3つの欲求があります。

 

「ほめられたい」

 

「認められたい」

 

「役に立ちたい」

 

以上の3つです。会話のなかで、この3つの「鯛」をいかに上手に釣り上げるかが、執事の腕の見せどころなのです。

 

「マズローの欲求五段階説」をご存じでしょうか?

 

人間の欲求は「生理的欲求」(本能的な欲求)をもっとも低次元のものとして、次元が上がるごとに「安全欲求」(安全に暮らしたい欲求)、「社会的欲求」(集団に所属したい欲求)、「尊厳欲求」(認められたい、承認されたいという欲求)、「自己実現欲求」(目標を達成したい欲求)へと高まっていく5つの階層で構成されているという考え方です。

 

私がいう「ほめられたい」「認められたい」「役に立ちたい」の3つの欲求は、この五大欲求をもっと簡単に、そして実用的にしたものといっていいでしょう。

 

ビジネスに応用することを考えても、5つあると少々難しいところもありますが、3つならはるかにわかりやすく頭に残ると思います。

 

3つのなかでも「ほめられたい」という欲求はとくに強いものです。

 

「ほめる」という行為は相手の自己承認欲求を満たすことにつながります。

 

難しいことは考えずとにかく目にしたもの、耳にしたことをほめることが大切なのです。

 

私たち執事もお客さまのことを、とにかくほめます。

 

顔を合わせた瞬間から、お客さまをほめることを常に考えているといってもいいでしょう。

 

第一歩は、なんといってもまず本人をほめることです。

 

「素敵な髪形ですね」

 

「お声が素敵ですね」

 

などなど、ほめるところを見つけては、笑顔とともに言葉に出します。

 

次にほめるのは、相手の持ち物です。

 

たとえばお客さまがボールペンを取り出したら、「素敵なボールペンですね」とほめます。

 

とりわけ会社で責任のある立場の人は、持ち物にもこだわりがあるはずです。

 

さらに、とっておきのキラーテクニックが、お客さまの子どもをほめることです。

 

誰でも自分の子どもは無条件でかわいいものですし、ほかの子どもよりも優れていると思いたいものですから。

 

「小学生でこの漢字が読めるなんて、じつに賢いお子様ですね」

 

「絵が本当にお上手ですね」

 

子どものことをほめられて嫌な気持ちになる親はどこにもいません。

 

そのほか、かわいがっているペットを「かわいいですね」とほめるのも効果的でしょう。

 

ほめることを心がけるだけで、お客さまの「鯛」を何匹も釣ることができます。

 

飲食、ホテル、窓口などのサーヴィス業でも、ネクタイやネクタイピン、スーツにジャケット、バッグなどなど、ほめるべき持ち物はいくらでも見つかるでしょう。

 

スマートフォンのカバーの色でもいいですし、「書きやすそうなノートですね」「使いやすそうな手帳ですね」でもいいのです。

 

続いては、お客さまの意見や行動を認めることです。

 

「ほめられたい」欲求の延長には、「認められたい」という気持ちが当然あるものです。

 

お客さまが「やっぱりオムライスの卵はふわふわがいいね」といったら、たとえ自分が昔風の焦げ目のついたオムライスが好きだとしても、「ふわとろのオムライスは最高です」と認めてあげましょう。

 

接待で野球観戦に行ったとき、「いま巨人は劣勢だけど、必ず逆転するだろう」とお客さまにいわれたら、「今年の巨人は終盤に強いですからね」と、相手の考えを100%受け入れ、熱を込めて認めます。

 

先ほど紹介した持ち物をほめる行動も、「認められたい」を満たすことにつながります。

 

持ち物は趣味に直結しているので、それをほめることは、相手の趣味を認めることになるからです。

 

そして最後に「役に立ちたい」です。

 

人はやはり、感謝されるとうれしいもの。ビジネスメールでは、たとえ大してお世話になっていなくても「いつもお世話になっております」と書きます。

 

上司への年賀状にも、実際に具体的な指導を受けていないとしても「部長のおかげで、私も大きく成長できました」と書きます。

 

このように感謝されると、相手の「役に立ちたい」という思いを満たすことができ、いい印象を持ってもらうことができるのです。

 

形式的な言葉だけではありません。実際的な場面で使うことも考えてみましょう。

 

たとえばあなたが飲食店のレジ係で、お客さまの会計が9000円だったとします。

 

一万円札をもらえば千円札一枚のお釣りを出すだけで、べつに手間でもなんでもないのですが、相手が「財布に千円札がいっぱいあるから」と全部を千円札で支払ってくれたら、「千円札はすぐに足りなくなるので、とても助かります」と一言添えて受け取ることで、相手の「役に立ちたい」を満たせるわけです。

 

感動を与えて、満足感を高めます

お客さまとの会話の中に、この3つの「鯛」を満たす言葉を効果的に盛り込んでいくことで、サーヴィスの質を飛躍的に高めることができます。

 

私は毎日の仕事の中で、10匹の「鯛」を釣ることを目指しています。

 

洋服をほめられたり、趣味を認められたり、善意の行為を感謝されれば、誰でもうれしくなるものです。

 

うれしくなれば、サーヴィス業の現場であれば居心地がいいと感じてもらえますし、それで気持ちよくなればお客さまの満足度も自然と向上するのです。

 

レベルの高い旅館、レストラン、そして航空会社なども、「鯛」を釣ることで顧客の満足感を高めています。

 

いくつものホテル・旅館ランキングで一位に輝いた石川県の加賀屋は、ほめることを徹底して日本一になりました。

 

銀座のクラブも「鯛」を上手に釣り上げます。

 

サーヴィス業だけではありません。

 

一般のサラリーマンの世界でも、上司や先輩、取引先などの「鯛」を釣ることで人間関係が円滑になりますし、距離もグッと縮まります。

 

少し大げさにいうなら、お客さまの「鯛」を釣ることは、相手に感動を与えることであり、それはおもてなしにつながるのです。

 

ただし、一つ気をつけたいのが、相手の奥さんをほめること。

 

あまり露骨にほめて「うちのやつに気があるのか」などと誤解を生んでしまったら、面倒なことになりますので、注意しましょう。

 

執事が教える 至高のおもてなし―心をつかむ「サーヴィス」の極意

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Category おもてなし・ホスピタリティの哲学 . ブログ 2020.08.25

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