おもてなし ・ ホスピタリティの哲学
「SSO」で、会話から心に踏み込みましょう
執事は、前項で説明した「鯛」を釣る会話のなかで、「SSO」を多用します。
誤解のないようにいっておきますが、SOSではありません。
「さすがですね」
「すごいですね」
「驚きました」
の頭文字から「SSO」です。
「鯛」を釣る話し方の延長線上で、この「SSO」を織り込むと、お客さまはさらに気持ちよくなってくれる、まさに魔法の言葉です。
接客中のお客さまとの会話、あるいは上司や取引先との雑談でもそうですが、相手の発言に対して「はい」とか「そうですか」「なるほど」などと適当に相槌を打って済ませてはいませんか?
これでは、会話が続かずにしぼんでしまうだけでなく、相手のテンションも下げてしまいます。
せっかく会話を盛り上げるチャンスなのに、もったいないことこの上ないといえるでしょう。
執事の場合は、たとえばお客さまから「今日、うちへの土産に老舗の○○屋の饅頭を買ったんだ」といわれて、「そうですか」で流してしまうのは完全に失格です。
そこにはおもてなしの気持ちがまったく込められていませんから、サーヴィスとしては0点なのです。
「○○屋ですか。さすがですね、お目が高い」
このように応えるだけで、お客さまはいい気分になり、相手の心に一歩近づけます。
同様に、「息子が東大に合格したんだ」といわれたら「すごいですね!」、「この前ホールインワンを出したんだよ」といわれたら「驚きました!」と、まずは「SSO」で返すことです。
相手の心に近づくことができれば、自然と感情に踏み込めるようになり、その後のサーヴィスはグンと効果が高まるでしょう。
お客さまが前向きな気分になり、その結果、仕事で高い成果を出していただくのも、私たちの役割です。
趣味のよさをほめる「さすがですね」、相手が大物だと認めてあげる「すごいですね」、自分を下に見せる「驚きました」の「SSO」は、自分たちが提供するサーヴィスの価値を高めることにもつながります。
意識するだけで口にできる簡単なものです
これは何も執事の世界に限った話ではありません。
どのような職業でも、何のためにサーヴィスを提供するのかといえば、究極的には相手に喜びや感動を与えるためです。
その意味で「SSO」は、本来提供すべきサーヴィスの満足度を一段と高める重要な入り口となるのです。
もちろん、お客さまに自慢めいたことをいわれる場合も頻繁にあります。
しかしそこで客観的な反対意見を述べて話の腰を折ったり、「そうですか」で軽く受け流したりしたら、相手はけっしていい気分になりません。
サーヴィスという観点から見て何もいいことはありません。
逆に、「この人は俺の話を聞かないのか、気分が悪い」と思われてしまったら、そのあとどんなにすばらしいサーヴィスを提供しても、相手の心に届きにくくなります。
レストランであれば、「料理の味までよくない」という印象を持たれるかもしれません。
ですから、たとえば「株でひと儲けしたんだ」と自慢げにいわれたとしても、
「さすがですね、やはり日頃から情報収集を欠かさないのですか?」
「すごいですね、私には一生経験できません」
「驚きました、勉強になります」
と相手を持ち上げ、自分を下に見せることで、いい気分になってもらうことが肝要なのです。
大富豪や高級ホテルの上客のように、相手が格段に上の立場というわけではなくても同じです。
たとえばチェーンの居酒屋にやってきた客が「この店のサワー、全種類制覇しましたよ!」と自慢してきたら、素直な態度で「すごいですね!」「驚きました!」と応じましょう。
そうすれば、その客はいい気分でお酒を飲むことができ、引き続きお店をひいきにしてくれることでしょう。
実際に試してみればすぐにわかると思いますが、「SSO」は、意識するだけで簡単にスッと口から出てくるはずです。
応用範囲も広いので、サーヴィス業に携わる方なら、覚えておいて絶対に損はしません。
そして、レストランであるなら質の高い食事の提供、飛行機の機内であれば快適なフライトといった本来のサーヴィスに円滑につなげ、お客さまの満足感を効果的に高めることができるのです。
ただし、「SSO」を口にするときは、一つだけ気をつけてください。
それは「小馬鹿にされた」と相手に思われないようにすること。
「こいつ、『さすが』とか『すごい』とか口ではいってるけど、なんだかニヤニヤしているし、心の底では笑いものにしているんだろう」
などと勘繰られてしまっては、せっかく喜んでもらおうとしたのに逆効果です。
そのためにも、まずは相手の話を真摯に聞き、理解すること。
そのうえで「SSO」を自然に口にできるように、日頃から鏡の前で練習してみるのもいいでしょう。
極端にいえば、役者のように演じる意識を持って臨むのもいいかもしれません。

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