おもてなし ・ ホスピタリティの哲学
いいおもてなしの基準は、お客さまに「気がある」と思われることです
すぐれた執事は、自分からお客さまのことを好きになります。
そして、お客さまからも「ひょっとして私に気があるのかな」と思われるものです。
気がある、というと語弊があるかもしれません。
この表現は、普通は恋愛感情について使われることが多いですから。
ところが、事実、お客さまからサーヴィスを高く評価される執事は、異性のお客さまに好かれるだけでなく、「あの人、私に気があるわね」と思われがちなのです。
これは執事にかぎったことではありません。
接客サーヴィス業では、しばしば起きることです。
たとえば誠心誠意サーヴィスを提供する一流のキャビンアテンダントは、お客さまに「あのCA、私に気があるんじゃないか」としばしば思われるといいます。
また、誰に対しても明るい笑顔で接するコーヒーチェーンの店員も同様で、カン違いするお客さまは多いようです。
もちろん、そう受け取られるだけの理由はあります。執事でいうと、いいおもてなしをしようと思ったなら、まずは相手のことを好きになることから始めます。
好きの種類はラブでもライクでもかまわないのですが、ともかくこれが第一歩です。
すると、一般的なカップルのように、好きになればなるほど相手のちょっとした言動に敏感になり、繊細な部分、見えづらかった部分が見えてきます。
その結果、「今日の表情は普段と明らかに違う。ビジネスで何かよくないことがあったのだろうか」や、「いつもより浅めのうなずき方をしたから、先方の提案に本気で同意したわけではないのかも」といったことがわかってくるのです。
一流の執事は、そうした経験があるおかげで、かゆいところに手が届くサーヴィスを先まわりして提供できるのです。
たとえば、「このお客さまはとても慎重な性格で、常に時間よりも早めに行動しようとするから、車を呼ぶ際は遅くとも10分前には到着しているようにすれば満足していただけるのではないか」と考えて実行します。
さながら、つきあい始めたカップルの彼氏・彼女が相手を心底喜ばせたくなるように、お客さまのことを一途に思い、好きだからこそ一生懸命サーヴィスしてあげたいと考えるのです。
そしてその真摯な思いがお客さまのツボに入ると、「この執事はいつも私に最高のサーヴィスをするように心がけてくれている」と気づき、いつしか単なる執事以上の存在として気になり始めるとともに、「もしや私に気があるのでは」と考えるようになるわけです。
お客さまを好きになりましょう
このように、最高のおもてなしは、サーヴィスを受ける側に恋愛感情に近い気持ちや予感を呼び起こすものなのかもしれません。
さらにいえば、超一流の執事は同性のお客さまからも好かれ、「気がある」と思われるものです。
異性のお客さまにそう思われることはしばしばあるのですが、同性から思われたなら、まさに執事冥利に尽きます。
現実に、私の会社に所属する男性執事Aについて海外の男性のお客さまから、
「キミのところのAはオレに気があるみたいだが、大丈夫なのか?」
と心配(?)の声を頂戴したことがあります。
もちろん私は「大丈夫です」と自信をもって答えました。
と同時に、同性の、しかも海外のお客さまに「気がある」とまで思われたAのことを誇りに感じたものです。
執事はお客さまを好きになることが第一歩。これはほかの接客サーヴィスでも基本は同じです。
もちろんサーヴィスを提供する側も人間ですから、好き嫌いはあるものですが、それでもお客さまを好きになることがまず大切です。
「この人嫌い」という雰囲気を漂わせた店員に接客されても、不愉快になることはあっても、喜びなど感じられるわけがありません。
その意味では、接客サーヴィスには、他人の悪い部分を見ないようにできる人が向いているのだといえます。
反対に、お客さまの悪いところばかりをついつい探してしまう人は、性格的におもてなしには向いていないのかもしれません。
そうはいってもあきらめるのは早い。
そこで磨きたいのが演技力です。
接客サーヴィスの仕事が好きで、今後も続けていきたいなら、お客さまのことが大好きなサーヴィススタッフの役まわりを徹底的に演じるように努力するのがいいでしょう。
最後にもう一点。
お客さまを好きになる、お客さまから「気がある」と思われるようになるといっても、当然ながら程度の問題です。
接客サーヴィスという仕事として接しているのだというバランス感覚は、あくまでも失わないようにしてください。
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