おもてなし ・ ホスピタリティの哲学
「いらっしゃいませ」は使わないようにしましょう
執事は、コミュニケーションに発展しない挨拶の言葉は使いません。
必ず次に相手が会話を続けられる言葉で話しかけるように意識しています。
接客用語の基本に「いらっしゃいませ」があります。
じつはこの「いらっしゃいませ」がクセ者で、単独で使うと発展性がない言葉の代表格なのです。
さまざまな接客サーヴィス業で、来店したお客さまに「いらっしゃいませ」と声をかけるのは当然のことだと考えられています。
接客マナーの初歩の初歩として、お辞儀の仕方と併せて最初にマスターさせられる会社も多いのではないでしょうか。
しかし、考えてみてください。
「いらっしゃいませ」とだけ挨拶されたお客さまは、何も答えることができません。
「ありがとう」と応じるのは変ですし、「はい」でも中途半端。
「こんにちは」といった当たり前の挨拶も出にくいと思います。
要は、そこで終わりになるのです。
そこで終わってしまうということは、コミュニケーションに発展せず、相手の感情に踏み込めないということです。
感情に踏み込めなければ、当然ながら相手が喜ぶおもてなしもできません。
「こんにちは」や「おはようございます」なら、どのような場面でも問題なく使えます。
「こんにちは」と挨拶されれば客の側も「こんにちは」と答えられますし、そこからコミュニケーションが生まれることもあるからです。
ところが「いらっしゃいませ」は一方通行です。
客の側から返事の可能性を奪うという点で、接客サーヴィス業において単独で使ってはいけない言葉なのです。
とはいえ、「いらっしゃいませ」を絶対に使ってはいけないということではありません。
たとえばコミュニケーションを大事にするレストランやコンビニに行くと、「いらっしゃいませ、こんにちは」と挨拶してきます。
「いらっしゃいませ」を使ってはいるのですが、「こんにちは」がついていることで、客は挨拶を返せるのです。
同様に「いらっしゃいませ、本日7時からご予約の新井様ですね」ならば、「今日は楽しみにしてきました」「ちょっと早く着いちゃいました」などと客の側が会話を続けることもできます。
挨拶は、コミュニケーションの大切な取っかかりです。
サーヴィスレベルの高い業界では、いまは単独の「いらっしゃいませ」を極力使わないようになっています。
高級ホテルや飛行機のキャビンアテンダントもかつては使っていましたが、現在では基本的に使いません。
相手が返事をできる表現を使う意識を持つと、この章で紹介した「ほめる」や「SSO」のテクニックにも応用することができます。
ほめる言葉や「さすがですね」「すごいですね」だけで終わらせず、あとに質問を続けるのです。
たとえば「うちの息子が東大に合格したんだ」と言われたら、「さすがですね! 山田さんも東大でしたよね?」とか「すごいですね! 理系ですか?」などと、必ず質問をつけるようにしましょう。
質問をされると、相手は答えたくなるもので、そこからコミュニケーションが膨らんでいきます。
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Category おもてなし・ホスピタリティの哲学 . ブログ 2020.09.01