おもてなし ・ ホスピタリティの哲学
相手に喜ばれるものを持ち歩きましょう
私は当社の執事に対し、
「いつも『人におもてなしをしたい』というサーヴィスマインドを持つようにしてください」
と繰り返し伝えています。
サーヴィスマインドは、もともと誰もが持っているものです。
「誰かのためになりたい」「お世話してあげたい」と思ったことがあるなら、それがサーヴィスマインドです。
しかし、求められなければサーヴィスマインドを発揮できないというのでは、執事としてプロフェッショナルといえません。
お客さまが期待しているのは、〝頭の回転が速く、あれこれいわなくても気配りしてくれる執事〟です。
その要求に応えるためには、いつも「どうすれば目の前の人に心地よく過ごしてもらえるか」という視点で行動する必要があります。
つまり執事には、いつ、どんなときもサーヴィスマインドを忘れずに行動するという高い意識が求められるのです。
私が執事に伝えているのは、その意識を大切にしてほしいということです。
とはいえ、高い意識を持つことは簡単ではありません。
そこで私は執事に対し、アメと絆創膏をカバンに入れて持ち歩くことを勧めています。
機会を見つけてはそれらをお客さまに配るのですが、ただそれだけのことが、執事の意識向上につながるのです。
アメが活躍するのは、たとえばお客さまに同行して外出したときです。
移動中や訪問先で待たされたときなど、手持ち無沙汰な時間が続いたときに「おひとつ、いかがですか」と差し出すと、お客さまにとても喜ばれます。
また、お客さまが疲れた表情をしてデスクに向かっているときにも「お疲れさまです」と言ってアメを差し出すことがあります。
すると多くのお客さまが「気が利くねえ」などと言いながら、喜んでそのアメを受け取ってくれます。
一粒のアメに特別な価値があるわけではありません。
だからこそ、お客さまも遠慮せずに喜んで受け取ってくれるのですが、そこがポイントです。
ニーズを見つけてサーヴィスを提案し、それをお客さまに受け入れてもらったわけですから、それは小さくても、一つのおもてなしを成し遂げたことになります。
それに加え、お客さまにおもてなしを受け取ってもらったあとには、「ありがとう」「嬉しいね」という感謝の言葉があります。
一つのおもてなしを成し遂げて、感謝の言葉をもらうことで執事は達成感を覚え、仕事に対する自信を深めます。
そして、「さらにいいおもてなしをするためには、どうすればいいのか」というようにモチベーションが向上します。
つまり、アメを配るという小さなおもてなしを繰り返せば、執事はおもてなし体験を積み重ねて成長し、プロフェッショナルとして高い意識を持つようになるのです。
絆創膏も同じです。
指先を傷つけて痛そうにしている人に差し出せば、「助かるよ」といって受け取ってもらえるはずです。
そして、その小さなおもてなしの一つひとつが執事の意識向上につながるのです。
アメと絆創膏を一緒に持ち歩けば、小さなおもてなしを試みる機会はぐっと増え、それだけ執事の成長は早まるのです。
相手のために持ち物を選びます
アメはおもてなしのきっかけですから、相手に喜んでもらえるものなら、どんなものでも構いません。
私が持ち歩いているのは、「ウィルヘルミナ・ミント」というタブレットキャンディです。
オランダのお菓子メーカー、フォルトゥンが、創立50周年を迎えた1892年に当時のウィルヘルミナ・オランダ王女に敬意を表してつくったという、いわれのあるキャンディです。
このキャンディを差し出すと、「オランダのミントタブレットだよね」「どこで手に入れたの?」と、どのお客さまもにこやかに話しかけてくれます。
「このアメ、珍しいね」という反応があれば上記のうんちくを話すのですが、すると「へえ、そうなの。面白いね」というように相手の次の反応を引き出すことができます。
このように、おもてなしのきっかけとして差し出したアメは、コミュニケーションを深める役目も果たします。
私は最近、キャンディと絆創膏に加えて携帯電話用のモバイルバッテリーも持ち歩くようになりました。
もともとは自分のためでしたが、あるとき携帯電話のバッテリーを切らしてしまったお客さまに差し出したところ、「これから大事な電話がかかってくるところだったんだ。感謝するよ」と大変喜ばれました。
この出来事をきっかけに、モバイルバッテリーも、おもてなしのきっかけづくりのために持ち歩くようになりました。
このようにおもてなしに役立つアイテムは、まだまだたくさんあるはずです。
「自分のため」という視点から「人に喜ばれるため」という視点に切り替えて、持ち物を選んでみてください。

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